問診は、患者さんの立場になって聞く、“患者さんの目線”で伝えるのが基本的です。
しかし、一番大事な患者さんに「寄り添うこと」を忘れる医者も多いようです。
5分診療に見られる経営を優先した業務の効率化などにより、医者はますます“人間味”を失いつつあります。
このことは、病院で診察を受けた人なら、誰しもが当たり前に感じていることだと思います。
だからといって、見過ごしてよいものではありません。
問診は患者さんとはじめて出会い、患者さんを知るための最も大事な時間です。
患者さんは、“藁をもつかむ思いで”専門家にしっかり話を聞いてもらいたいと願っているのです。
そして、先生によきアドバイスと最善の治療法を期待しています。
寄り添うとはほど遠い対応に失望し、みじめな気持ちで帰してはいけないのです。
当院に通われている患者さんは私にこう訴えます。
「少しでも話を聞いてくれるだけで、安心するし、元気にもなれるのに、問診では話す時間がほとんどない…」さらに、患者さんは私に愚痴ります。「病院はカルテをつくり、検査をして、薬を出すところでしかない…」私はこのような話を聞くたびに、胸が痛みます。
対応した医者も同じ人間ですから、患者さんは少しでも話を聞いてもらえば、ふさぎ込んだ気持ちが楽になることはわ
かっているはずです。
医者には、もう少し患者さんの立場になって、多少なりとも「寄り添う気持ち」を持って、問診にあたってもらいたい
と切に願います。
寄り添うとは?
患者さんにとって“寄り添う”とは患者さんがいつでも相談できる人が、手の届く距離感にいる安心感だと思っています。
言いかえれば、心の距離を近づけることだと思います。
また、寄り添うとは、「親身」になるということでもあります。
私にとっては、患者さんの不安をできるだけ少なくして、症状をできるだけ改善するために、一緒に治していこうと思う当たり前の気持ちが親身です。
患者さんは寄り添われていること、ひとりではないことを実感することで、治療を自分ごととして意識し、治療やセルフケアに取り組む姿勢や意欲が生まれるものです。
当院では、初診での問診は、最低でも1時間は行います。
その中身は、まず、しっかりと「患者さんが私に伝えたいこと」を聞くことです。
そして、それを踏まえたうえで、患者さんに、今、最も必要な考え方や治療の内容をホワイトボードを使い、わかりやすく絵や図解などして説明します。
これが他院との違いであり、5分診療との明らかな違いです。
私にとって、この瞬間が患者さんとの心の距離を近くし、「信頼関係」を築く大事な時間です。
また、初回の施術後には、患者さんとLINEなどを使い、院内で聞けなかったことや、ちょっと気になることを気兼ねなくやりとりをします。これにより、患者さんは悩みが減り、気分がかなり落ち着きます。
希望される患者さんには、私の個人LINEをお伝えして、24時間、365日いつでも、相談できるようにしています。
いつでも、何でも相談に乗ってくれる先生がそばにいることが患者さんにとっての支えであり、安心なのです。
主役は患者さん!
「私が治します!」と、ホームページなどでうたっている先生がよくいます。
でも本気で「私が治す」と考えていたら、それは誤解です。
カウンセリングや治療は、治るきっかけを与えているだけです。
実際は治すのは体であり、患者さんの治ろうとする意識と、体に備わっているホメオスタシス(生体恒常性)によるところが大きいのです。
そもそも人間の体は、治療をするだけで治るわけではありません。
誰にでも心があり、さまざまなストレスにより、常に心に大なり小なり感情の波が起きています。
仕事を頑張りすぎたり、心配ごとを常に考えていたりすると、過度のストレスが脳にかかり続けて、脳の処理能力
が限界を超えて、心や体にバグ(エラー)が起きます。
このバグが起こるのは、心が先で、次に体が崩れるのが自然な流れです。
特に、精神科や心療内科に通われて、自律神経失調症やうつ病などと診断された人は、脳への過度なストレスによ
り、心が大きく乱れている状態です。
そんな状態で、体を治療(施術)しても、一時的には変化はあっても、体に起きている症状はそう大きくは変化しません。
したがって、まずは、患者さんの「心の状態を知る」ことです。
一般的な病院などの問診やカウンセリングは、システマティックになっているため、短時間に、患者さんから効率的に情報を聞き出そうとします。
そもそもここが間違っています。
たとえば、心療内科ではこんなことを聞かれます。
・どんな症状が、いつから、どんなときに出ているのか
・今までにその症状に対して治療を受けたことがあるか
・現在、飲んでいる薬があるか
・今まで大きな病気にかかったことがあるか
・家族のこと
・仕事のこと
・生活のこと
・食事をとれているか
・睡眠をとれているか
などです。
人により、知能検査やエコグラム(性格検査)を行う場合があります。
これで、本当に患者さんの伝えたいことを正しく受け止められているのでしょうか、はなはだ疑問です。
心に変調をきたしている人が、自分の現状を冷静に捉えて、正しく伝えることはかなり難しいことです。
付き添いの方から聞く場合もありますが、表面的なことしかわかりません。
大事なのは、聞き出すだけではなく、「見つけ出し、感じ取ること」です。
患者さんが先生に最も求めていることは、患者さんのことをわかろうとする気持ちと真摯に向き合う態度です。
ここをしっかりわかっていないと、患者さんとの信頼関係は永遠に築けません。
ただ、注意が必要です。
患者さんとの信頼関係がある程度築けたとしても、患者さんはすべてを話してはいないということです。
問診自体の緊張もありますが、患者さんは今、自分が気になっていること、意識していることしか話さないのです。
潜在意識の部分は話せていないのです。
この潜在意識の部分がとても大事なのです。
それは、人は大部分の行動を無意識に行い、それが常態化、習慣化しているからです。
こちらは、その部分まで読み取っていかなければ、患者さんのことを本当にわかったことにはならないのです。
この部分を読み取る方法は、先生によっていろんな方法があると思いますが、私が行う方法は、まずは、患者さんのこれまでの出来事や育った環境、性格が形成される過程となる話の内容などから、ひとつの人物像をつくり、患者さんの今の意識や感情をそれに乗せていきます。
目の前の患者さんと話しながら、一方で、患者さんの心の深い部分に入り込んでいくイメージです。
表現としては、心をシンクロ(同調)して、患者さんの「過去を一緒に旅する感じ」です。
これは、自律神経失調症に必要な「全人的治療注」に近いものかもしれません。
注) 全人的治療:特定の部位や疾患に限定せず、患者の心理や社会的側面なども含めて幅広く考慮し
ながら、個々人に合った総合的な疾病予防や診断・治療を行う医療。『大辞林第四版』(三省堂)
より引用。
私はこうして、その場で感じた内容を患者さんにフィードバックし、内容がどうであったか、それについて何か「気づき」があったかなど、率直な感想を聞きます。
このタイミングで、大体の人が安堵の表情になり、中には泣き出される人もいます。
「はじめて自分のことをわかってもらえた」と、よく言われます。
私の治療方針は、事務的に話を聞くのではなく、患者さんに寄り添って、積極的にこちらから「見つけ出
そうとする姿勢」を大切にすることです。
具体的にいうと、
1. 分析したデータをただ伝えるのではなく、自分で感じ取ったものを、患者さんにフィードバックしながら
伝える。
2. 患者さんの心や体が解放される心理面を洞察し、より良い方向に変わる道筋を創造しながら、その変わ
る「イメージを共有する」ためには、どのような方法で伝えたら、一番伝わるのかを考える。
3. 図解やイラストなどを使い、患者さんがイメージしやすいように具体的にわかりやすく伝える。
しっかり考え抜く!
私の場合、ぐっと目を閉じて考え、脳に負荷をかける感じで行います。
穏やかに集中することで、自然と「心の目」が開きます。
皆さんはこれを直感、インスピレーションと呼んでいるかもしれません。
自律神経失調症は、見えないところに不調の原因があります。
だからこそ、治療においては「クリエイティビティ(創造力)」が必要になるのです。
私は、心の目で見たもの(感じ取ったもの)を、患者さんにイメージしやすいように、「絵や図」を書いてできるだけわかりやすく伝えています。
こうしたしっかりとした問診やカウンセリングを行わないと、患者さんが求めている良い心や体の状態にはなりにくいのです。
治療の答えは患者さんが持っていますから、患者さんが答えを教えてくれるまでしっかり聞くのです。
ここをしっかりと理解できていれば、5分診療の弊害の症状と治療のミスマッチは決して起こりません。
これは新規の患者さんからよく聞く話です。
「今、通っている所の先生は、すごくいい先生で、一生懸命に治療してくれています。
しかし、あまり良くなっていなくて…」多分、この先生は、内心、「どうして良くならないのか?」悩んでいるはずです。
これでは、先生に付き合わされている患者さんが不幸です。
「姿勢が良くなれば、痛みがなくなる」治療は、治療のすべてではないということです。
「主役は患者さん」です。
良い治療とは、施術後に患者さんが、心も体も納得いく状態になることです。
患者さんが悩み、困っている状態から、問診をして治療をして、自力でセルフコントロール(心の動き)、セルフケア(体の動き)ができるまでをサポートすることが私たちの役目です。
患者さんは、最善の治療を受けて、教えられたセルフケアを症状がなくなっても、毎日、習慣化するまで真剣に取り組むことが大切です。
私は、毎回の治療の中で、患者さんが自ら行動しようとするきっかけとなる「言葉」を伝え続けています。