私たちの体は生命維持のために、体を一定の状態に保つ自動制御システム「ホメオスタシス(生体恒常性)」が備わっています。
猛暑の夏でも、極寒の冬でも、常に体温を一定(平熱)に保っています。
脳では、怒りや興奮したときに出る伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリン)を安定させるために、セロトニンが分泌され、感情や欲求などをコントロールします。また、セロトニンは睡眠を促す「メラトニン」を生成するため、生活に欠かせない大事なホルモンです。
自律神経は、朝(起床)から夕方へかけては活動するための交感神経が優位に、夕方から夜(就寝)にかけてはリラックスするための副交感神経が優位に働き、1日の活動がうまくいくように体の内部環境をコントロールしています。
しかし、過度なストレスがかかると、この自動制御システムはうまく働かなくなり、さらにストレスが慢性化すると、このシステムは壊れてしまいます。
つまり、自律神経失調症からうつ病などの深刻な病気にもつながるのです。
ここで考えてもらいたいのは、毎日の生活の中で避けることができない外部ストレッサーをなるべく減らしつつ、“自ら生み出しているストレス”を減らすことが重要です。
たとえば、不安感の強い人、思い込みの強い人、過敏に反応する人は、体に少しの痛みや不調があるだけで、「重大な病気ではないか?」と心配したりします。
また、ニュースや雑誌、人から、ネガティブな話を見聞きして、すぐには起こり得ないであろうことを、あたかも、「自分の身に起こるのではないか?」と過度に心配したりします。
これでは、せっかく体を守ろうと努力している脳や体の自動制御システムを自ら壊してしまうのです。
“ネガティブ思考”を早い段階で止める!
人間は進化の過程で外敵から身を守るために「危機管理能力」が備わりました。
そのため、できるだけリスクを回避するよう、未知のことに対してはネガティブに捉えやすいのです。
だからこそ、ネガティブな思考が連鎖して、脳に過度なストレスを与えないように、ネガティブ思考を早い段階で止める“癖づけ”が必要です。
簡単な方法は「これ以上考えても無駄!」と唱えて、素早く気持ちを切りかえることです。
楽しめている自分を“自画自賛”しましょう!
今の時代は、ネット上での誹謗中傷など、人のあら探しや人をけなす風潮になってしまっています…
今の人たちは、社会情勢やハードワークなどから、気持ちに余裕がなくなり、他人の良いところにはあまり目
を向けられなくなっています。
誰もあなたのことを褒めてくれないなら、せめて「自分で自分を褒めること」をしてください。
自分を認めること、自分を褒めることは、外部ストレッサーに対抗する「最善の手段」になります。
些細なことでも、楽しめている自分を自画自賛しましょう!
「私はがんばっている!」と堂々と叫んでください!
呼吸が大事なわけ!
呼吸は意識的に自律神経を整える「唯一の方法」です。
つまり、呼吸により、リラックスしたいときに意識的に心も体もリラックスさせることができるのです。
当院では、施術の際、患者さんに「意識して息を吐く」ように伝えています。
吐くことによって自律神経の副交感神経が優位に働き、筋肉がゆるむためです。
また、セルフケアを行う際も同様に、呼吸を止めないで、リラックスした状態でストレッチをするように伝えています。
呼吸には、「胸式呼吸」と「腹式呼吸」があります。
胸式呼吸は、急激な運動や作業など、活動を高める際に、筋肉や組織に効率的に酸素を送るために強制的に横隔膜や肋骨などを使います。
そのときに、呼吸にかかわる首や肩や背中の筋肉(呼吸筋)に負荷がかかります。
これが、長時間続くと、首や肩など上半身を緊張させ、首こり、肩こり、頭痛、眼精疲労などの要因になります。
また、横隔膜や胸郭(肋骨)につながっている筋肉が硬くなることで、脳に酸素がうまくいかなくなり、脳は「緊急事態」と判断します。すると、不安感や焦りの感情が「扁桃体(恐怖や不安などの感情を司る)」に伝わり、交感神経が優位になり、血管が収縮し筋肉が硬くなります。
これが、肩こりや背中の痛み、首の痛みなどの慢性的な症状の原因です。
一方、腹式呼吸は、ゆっくりとした動きを意識して、横隔膜を上下させ、肋骨を広げ、肺を伸縮することで、胃や腸など内臓のマッサージにもなり、心を落ち着けるリラックス効果もあります。
日常生活の中に、意識的に腹式呼吸を取り入れることで、心にゆとりが生まれ、落ち着いた行動ができます。
腹式呼吸(4・4・8)のやり方
リラックスして、一度、口からゆっくり吐きます。
次に、①鼻から4秒で吸って②4秒止めて体のすみずみまで酸素を送り、③口から8秒でゆっくり吐きます。
この秒数は、体にリズムを覚えさせるためです。
リズムをつかんだら、あまり意識しすぎないようにしましょう。
マインドフルネスや瞑想は、呼吸に集中することによって、“頭の中を空っぽにした状態(今のあるがままの状態を感じる)”にして、脳のストレスをやわらげる方法です。
そのほか、当院ではセルフケアとして、腹式呼吸の際は、患者さんが体の硬く感じるところや不調を感じるところに「呼吸を送る」ように伝えています。
これは、私が以前、体調を整えるために3年ほどヨガを習っていた際に、ヨガの先生から教わった「体を整える
呼吸法」を治療に応用したものです。
不調の部位に呼吸を送る意識は、脳に不調の部位をより認識(整える命令を促す)させ、自然治癒力を高めると私は考えています。
また、仕事や勉強を開始する前に、一旦、意識を呼吸に集中させることで、気持ちの切りかえがスムーズに行え、作業効率のアップにつながります。
腹式呼吸の姿勢は、ヨガの先生のような理想的な良い姿勢ではなく、お腹を膨らませやすいリラックスした「自分が心地良いと感じる姿勢」が正しい姿勢です。
腹式呼吸を習得できると、心も体もリラックスした状態が常につくれます。
朝起きて、朝日を浴びながらリラックスした姿勢で、目は閉じても開けていても結構ですから、まずは5分間くらいの腹式呼
吸をやってみてください。
そして、家にいるときや仕事をしているときなど日常的に、できるだけ“腹式呼吸”を意識してください。
腹式呼吸を行うことで、脳に“オンとオフ”を認識させることができ、ストレスの軽減につながります。
慣れてくれば、自律神経が乱れている違和感を感じにくくなります。
体が整っている良いイメージができると、心にゆとりが生まれます。
腹式呼吸は、心も体も整える「健康の土台」です。
一生続ける気持ちでしっかりとやってみてください。